焼香の作法、宗派による違い
葬儀や法事の場で欠かせない「焼香」。
故人への弔意を表す大切な作法ですが、宗派によって回数や手順に違いがあることをご存じでしょうか。
今回の記事では、いざという時に慌てないためにも、基本的な作法と宗派ごとの違いを分かり安くご案内いたします。
焼香の基本的な流れ
焼香には、立ったまま行う「立礼焼香」、座って行う「座礼焼香」、香炉を席で回す「回し焼香」がありますが、基本的な動作は共通しています。
- 順番が来たら祭壇へ進み、手前で遺族と僧侶に一礼します。
- 焼香台の一歩手前で、遺影(御本尊)に向かって一礼します。
- 数珠を左手にかけ、右手の親指・人差し指・中指の三本で抹香(粉末状のお香)を少量つまみます。
- つまんだ抹香を香炉の炭の上に静かにくべます。 (この時、宗派によって額に掲げる「※おしいただく(下記参照)」という動作が入ります)
- 再度、遺影(御本尊)に向かって合掌し、一礼します。
- 一歩下がり、遺族と僧侶に再び一礼してから席に戻ります。
最も大切なのは、故人を偲び、心を込めて行うことです。
作法に自信がない場合でも、丁寧な振る舞いを心がけましょう。
宗派による焼香の回数と作法の違い一覧表
焼香の回数や作法は、宗派の教えによって異なります。主な宗派の違いは以下の通りです。
ご自身の宗派の作法で行うのが基本ですが、参列先の宗派に合わせる必要は必ずしもないとされています。
宗派 | 回数 | おしいただく作法 | 備考 |
天台宗 | 1回または3回 | する | 特に回数の定めはないが、1回か3回が多い。 |
真言宗 | 3回 | する | 三宝(仏・法・僧)への帰依を表す。 |
浄土宗 | 1回または3回 | する | 特に回数の定めはない。 |
浄土真宗 本願寺派(西) | 1回 | しない | 香を仏様へお供えするという考えから。 |
浄土真宗 大谷派(東) | 2回 | しない | |
臨済宗 | 1回 | する | |
曹洞宗 | 2回 | 1回目はし、2回目はしない | 1回目を「主香」、2回目を「従香」と呼ぶ。 |
日蓮宗 | 1回または3回 | する | 導師は3回、一般参列者は1回が基本。 |
※おしいただくとは? 抹香をつまんだ右手を、目の高さ(額のあたり)まで静かに掲げる動作のことです。
ご自身の宗派が分からない、または自信がない場合 前の人の作法を参考にするか、心を込めて1回だけ焼香するのが無難です。
回数よりも、故人を悼む気持ちが大切です。
焼香の形式ごとの手順
1. 立礼焼香(りつれいしょうこう) 椅子席の斎場などで最も一般的に行われる形式です。
- 順番が来たら席を立ち、焼香台の手前まで進みます。
- 遺族、僧侶に一礼します。
- 焼香台に一歩近づき、遺影に向かって一礼します。
- 上記の「基本的な流れ」に沿って焼香を行います。
- 合掌、一礼の後、遺影を向いたまま一歩下がります。
- 遺族、僧侶に再度一礼し、自席に戻ります。
2. 座礼焼香(ざれいしょうこう) 畳敷きの和室や寺院などで行われる形式です。
- 順番が来たら、中腰で焼香台の手前まで進みます。移動の際は、かかとを立てて膝で進む「膝行(しっこう)」で行うのが正式です。
- 焼香台の手前で正座し、遺族、僧侶に一礼します。
- 遺影に向かって一礼します。
- 膝行で焼香台に近づき、正座のまま焼香を行います。
- 合掌、一礼の後、膝行で少し下がり(膝退:しったい)、遺影に向き直って一礼します。
- 向きを変え、遺族、僧侶に一礼してから立ち上がり、自席に戻ります。
3. 回し焼香(まわししょうこう) 会場が狭い場合や、参列者が多い時に行われます。香炉と抹香が乗ったお盆が席まで回ってきます。
- 前の人からお盆を会釈して受け取り、自分の正面(膝の上など)に置きます。
- 遺影に向かって一礼、合掌します。
- 宗派の作法に沿って焼香を行います。
- 焼香後、再度合掌します。
- 隣の人に会釈しながらお盆を回します。
まとめ
焼香の作法は宗派によって様々ですが、最も大切なのは故人を心から偲び、悼む気持ちです。
ご紹介したように、回数や「おしいただく」作法の有無などに違いはありますが、どの宗派の作法が正しいというものではありません。
もしご自身の宗派が分からなかったり、作法に不安を感じたりした際には、周りの方の所作を参考にされるか、心を込めて一回だけ焼香されても決して失礼にはあたりません。
形式にとらわれすぎることなく、故人への感謝と安らかな眠りを祈り、丁寧に手を合わせることが何よりのご供養となります。
この記事が、いざという時の不安を少しでも和らげ、心穏やかに故人をお見送りするための一助となれば幸いです。